こちらのつづきを読み進める。
今回はフランクフルト学派第二世代と呼ばれるハーバーマスを取り上げる。
ハーバーマスはロールズの『正義論』を高く評価した。
道徳的な義務から行為をするのではなく、自己の利益を考えて考察すればよいとハーバマスは考えた。
しかしながらも、『正義論』には理論に穴があるとし、ハーバーマスはその埋め合わせとして「討議倫理」を提唱する。
ハーバーマスが指摘するロールズ『正義論』3つの欠陥
・相談する相手がいない
ロールズのモノローグ的モデルにおいては、他者と相談することが禁じられているため、個々はマキシミン原理に従って行動することになる。これがミクロ的にもマクロ的にも、全体としての最適解には到達し得ない原因となる。
・正義の原理を選択せざるを得なくするような個々の動機づけが不明
ロールズのモデルにおいては、個々は主体的で道徳的な行為をすると想定されている。しかしながら、その自己の利益のみを追求するという前提のもとでは、いかにして正義の原理を選択していくのかというメカニズムまでも説明するには至らない。
・複数世界を過度に単純化している
それでもロールズの原理が適用されるならば、選択肢が少ないことを意味するとハーバーマスは指摘する。
様々なかたちで存在する正義は、複雑な全体からは切り離し得ないとされる。
・討議倫理とは
社会学者ミードの「役割理論」を取り入れる。
ハーバマスによれば、カントの定言命法 (道徳法則の形式) が個人の道徳原理に対して、「間主観的な了解の必要性」に直面することになり、人々は普遍的な原則を提示し、立証する責任が発生するとされる。
だからこそ討議が必要であるとする。
著者によれば、この概念はカント的な伝統から出てくる義務論をリベラル派とわかちもち、かつヘーゲル的な伝統から出てくる間主観的な理解をコミュニタリアンともわかちもつことができ、中立的な位置をとることができているとする。
つづく
公開日2022-01-27