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感想
通勤時間帯に読むにはもっとも読みやすい古典だと感じた。そのため、あっという間に最後までたどり着くことができた。『ゲーテとの対話』は何回か途中で止まってしまうことが多かったので、読み切ることができたので古典との付き合い方、距離感というものを自分で少し掴めたように思う。
翻訳の仕方次第の面もあるが、ゲーテの話し方、態度、性格は最後まで穏やかで理性的で、それでいながらも不屈の精神、失うことのない創作への情熱、強健な身体(若くして亡くなってしまう17、18世紀の時代に80歳まで生きている)を兼ね備えたゲーテは、自分の憧れでありつづける。理想的には原典で読むべきであったが、自分はドイツ語は全くもって読めない。三島由紀夫の本を読んだときに、ゲーテは残酷である、といった文章があったが少なくともゲーテとの対話のなかにそのような趣を感じさせるシーンは一切なかった。
最後に、書き残したメモを再度この記事にまとめたい。
書き写すことによってゲーテの言葉を内に刻み、ゲーテの言葉とともにこれから別の古典に触れてみようと思う。
・・・
(ゲーテ)”(・・・)なぜという質問はまったく学問的でない。だが、どのようにしてという質問ならば、一歩先に進めることができる。” P305
(ゲーテ)”「鉱物学の世界では、最も単純なものが最もすぐれているのだが、有機体の世界では、最も複雑なものが最もすぐれているのだからね。つまり、二つの世界がまったく違った傾向をもっていることと、また、一方から一方への段階的な発展は決して見出されないことがわかっているのさ。」私は以上の話をたいへん重要なものとして書きとめておいた。” P311
(ゲーテ)”名声は、労苦の泉、隠世は、幸福の世。” P23
恋愛について語るゲーテ
“「恋愛と知性がなにか関係でもあるというのかね?われわれが若い女性を愛するのは、知性のためではなく、別のもののためさ。美しさや、若々しさや、いじわるさや、人なつっこさや、個性、欠点、気まぐれ、その他一切の言いようのないものをわれわれは愛しはするが、彼女の知性を愛するわけではないよ。彼女の知性が光っていれば、われわれはそれを尊敬しよう。またそれによって娘はわれわれにとって無限に尊く見えるかもしれない。またすでに恋に陥っているなら、知性は二人を引きつけておくのに役立つかもしれない。けれども、知性は、われわれを夢中にし、情熱を目覚ます力があるものではないのだよ。」” P45
“今日、食事の後で、ゲーテは私と一緒にラファエロの画集に目を通した。彼はよくラファエロの研究に没頭する。最高の作品にたえず接触して、自分を鍛え、気高い人間の思想を汲み取るためなのである。” P52
美学者について語るゲーテ
“「私は、美学者どもがおかしくて仕様がないよ」とゲーテはいった、「連中はわれわれが美しいという表現で呼んでいる曰く言い難いものを、いくつかの抽象的言語で一つの概念に統一しようと頭を悩ましているのだからね。美は、根源現象なのだ。だからなるほど、それ自体は現れることはないにしても、その反映は、無数のさまざまな創造的な精神のあらわれの中に見られるわけだよ。自然そのものと同じくらい多種多様なのさ。」” P158-159
文学作品について語るゲーテ
“つまり、文学作品は測り難ければ図り難いほど、知性で理解できなければ理解できないほど、それだけすぐれた作品になるということだ。」” P187
”「同類のものは、われわれを安心させる。しかし、反対のものは、われわれを創造的にしてくれるよ。」” P134
ソポクレスについて語るゲーテ
“詩人が、ソポクレスのように高度な精神内容をもっているなら、好きなように書いたところで、その効果はつねに道徳的なものになるだろう。” P142
政治について語るゲーテ
“「しかし、時代はたえず進歩しつつある。人間のやることなどは、五十年ごとに違った形態をとるのだから、一八〇〇年には完全であった制度も、一八五〇年にはもう欠陥となってしまうだろう。」「その上さらに、ある国民にとっては、他国民の真似ではなく、その国民自身の本質から、その国民自身の共通の要求から生じてきたものだけが、これは善であるといえるのだよ。(・・・)だから、ある外国の改革を導入しようとする試みは、自国民の本質に深く根ざした要求でないかぎり、すべて愚かなことだ。” P58
ドイツについて語るゲーテ
“「けれども、ドイツ統一の内容が、大国らしい唯一の大規模な首都を持つことであり、この一つの首都が、一人ひとりの偉大な才能を伸ばすために有益であるとか、国民大衆の福祉になるとかいうのなら、それは間違っている。(・・・)けれども、フランスのような素晴らしい国には、一つの大中心地ではなく、十の中心地があって、そこから光明と生命が流れ出ているほうがよいのだよ。」” P288
ヘーゲルが来館。ヘーゲルと弁証法について語るゲーテ
“自然研究の方がよっぽどましだな。(・・・)対象を観察し処理する場合、徹頭徹尾、純粋に誠実に行わない者はたちまち不合格であるとして否認されるからね。また、私は、多くの弁証法患者は、自然を研究すれば効果的に治療できるだろうと確信していますよ。」” P237
“「あらゆる最高級の生産力、あらゆる偉大な創意、あらゆる発明、実を結び成果を上げるあらゆる偉大な思想は、だれかの思うままになるものではない。それは一切の現世の力を超越しているよ。人間はこうしたものを、天からの思いがけない賜物、純粋な神の子と見なして、ありがたく感謝の心で受け取り、尊敬しなければならないね。(後半部分省略)” P250
晩年のゲーテの姿を垣間見ることができた。
人生の最期まで自然に対する洞察や文学への傾向は収まることなく、読み終えたあとは、高貴な精神とはこういうものなのだという、感慨深い気分に浸ることとなった。
エッカーマンと交わされた会話は哲学的、文学的な、非常に知的なものが多い印象であった。
示唆的なものが数多く収められていた。下巻では何が書かれているのか、こちらも楽しみなものである。
メモ
ディドロやヴォルテールについて語るゲーテ
“「ルイ十四世以来成長し、ついに全盛期に達したというわけだ。しかしディドロやダランベールやボーマルシェやその他の天才を煽り立てたのは、そもそもヴォルテールだったのだ。なぜなら、彼にも伍してひとかどのものであるには、たいへんな才能をもたねばならなかったし、また休みなら努力せねばならなかったからね。」” P346
安楽椅子について語るゲーテ
“「安楽というのはどんなものにしろ、元来、まったく私の性質にあわないのだ。(・・・)きらびやかな部屋や、しゃれた家具とかいったものは、思想ももたず、また、もとうともしない人たちのためのものだよ。」” P399
文学について語るゲーテ(ロマン主義への批判(?))
”それから、話題は一転して、フランス文学に戻った。とりわけ、少なからず才能のある数人が最近見せている急進ロマン派的な方向について話した。ゲーテの意見によると、この今はじまったばかりの文学革命は、文学そのものに益するところ大であるが、文学を創り出す個々の作家のためにはならない、とのことである。” P322
同時代人、ジェレミー・ベンサムについて語るゲーテ
エッカーマンは高齢になりながらもなお旺盛な仕事をしている点においてベンサムはゲーテと似ていると語る
(ゲーテ)”「しかし私たちは、鎖の反対の端にいるようなものだ。彼は破壊しようとしている。私は、維持し建設するのを好む。あの年で、あれほど過激であるなんて、愚の骨頂だ。」” P338