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読書日記1000

         ルネ・デカルト『方法序説』ちくま学芸文庫 (2010)

■株式会社筑摩書房

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日記

池田晶子は語る。

“「役に立たない」学問の筆頭は、言うまでもなく哲学である。「生きなければならない」と人々が思い込んでいるところ、「何のために生きるのか」と問うからだ。(・・・)生きるとは、考えることなのだ。こんな当たり前なことを言ったために、哲人は死刑になった。” (『死とは何か』P166)

約束事は目に見えない。「言葉」によって可視化はできる。しかし質量はない。言葉はどこに「存在」しているか。それは考える存在であるところの人間のなかにある。

法律も約束事と同じであって、可視化はできるがどこに存在しているか、それを示すことはできない。

紙の上に「在る」とでもいうのだろうか。

哲学は疑いきれないこと( ≒真理 )を追求する。

デカルトは、仮に身体というものが無くなったとしても考える「心」までは無くならないと『方法序説』のなかで述べている。

“次に、私とは何であるかを注意深く吟味した。そして次のことを見てとった。私はいかなる身体を持たず、いかなる世界もなければ、私はいかなる場所もないと仮定できるとしても、だからといって私が存在しないとは仮定できないこと。逆に、私が他の事物の真理性を疑おうとしているというまさにそのことから、私が存在することがきわめて明証的にきわめて確実に帰結すること。(・・・)たとえ物体がないとしても、精神はやはり精神であり続けるであろう、ということを知った。” (『方法序説』P57)

デカルトは三つの格率「第一格率」「第二格率」「第三格率」を忠実に守り、これを九年間自身に課し、それでもなお疑いきれなかったことでようやく「我思う、ゆえに我あり」という結論に至った。

心身二元論が誤りの可能性ついてはどうだろうか。

たしかに現代の精神医学は、心の不調が身体に原因があったり、身体の不調が心に原因がある例があるということを発見しはした。

しかしそれでもなお「私」がどこに「存在する」かまでは説明しきれていない。

「デカルトは間違っていた」というのは容易いが、デカルトを否定したところで、では現代人には何が分かっているのだろうか。

デカルトが仮に目の前に立っていたとして、なお我々はそのように堂々と言えるだろうか。

今更であるが、デカルトの分析は非常に卓越していることが分かった。

なぜデカルトが読まれつづけるのか。そこには普遍性があるからに他ならない。

“われわれの観念や概念は、それらが明晰判明であるかぎりにおいて、実在的なものであり、神に由来しており、ただその点においてのみ真であるということである。したがって、われわれがしばしば虚偽を含んだ観念や概念を持つとするなら、それは、それらが何か混乱した不明なものを含む点においてでしかない。なぜなら、この点でそれらは無を分け持っているからである。” (『方法序説』P64 )

虚構とは「あるように見せかけること」に他ならない。

治安が悪くなれば法律は機能しない。これがまさに法律が「虚構」であるところの裏付けなのである。

それは例外的な状態ゆえに、普段は見ることができないから虚構ではないとされているだけの話である。

デカルトは虚構の本質を端的に述べているように思われた。

無いものがあるように見えるときに、それが虚構であることを大衆に示したのがソクラテスであって(『ゴルギアス』によく示されている)、ソクラテスが死刑になったのは結局のところ権力の問題である。

無いものがあるように存在して成立している世界が破壊されたら確かに無秩序になる。

貨幣制度はある意味虚構であるが、紙切れを虚構であると全員が「信じて」いるから機能しているわけであり、それが「信じて」機能しているかぎりにおいてやはり「虚構」なのである。

つまり現代は「虚構」で固められている世界と言える。

それが良い方向に働くか、悪い方向に働くか。

貨幣制度によって周期的に発生する「恐慌」はそれが悪い方向に働いた場合のひとつの例であるが、虚構の全てが悪でもないし、善でもない。

その複雑性については議論が尽きないので私としては力不足である。

ここまできて、それでも哲学は役に立たないと言いきれるかどうか。

自分はそうは思わない。

公開日2023/4/21

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