■築地書館株式会社
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つづきをよみおえた。(新・読書日記113に収録)
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感想
様々な書物に触れ、この本に辿りついた。
目的はとくになく、しかし菌の重要性については散々聞かされてきたので(いろいろな本のなかで)、本書はとりあえず読まなければならないという気持ちがあった。
しかしただぼうっとして読んでいたわけでもない。
例えば、目に見えない世界が目に見える世界のなかで繰り広げられる様々な事柄の多くの原因を占めているという仮説。そして、その原因は目に見えない世界によるものが多くの割合を占めているとしたら。
形而上学はここで幅を利かせる。そして、今日ありとあらゆる社会の出来事は、ある程度目に見えない世界の事象によって説明できるということを、読み終えて確信しつつある。
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人間は食べたものによってつくられる。現代人はこのことを、身体的な意味のみによって捉えているかもしれない。実際にはそうとも言えず、精神的なほうもかなり影響を与えているのではないかと、本書を読んで思わされた。
執行草舟氏の「菌食」の概念がなければこのことに気づくことはできなかった。
自分はインカ帝国を亡ぼした西洋の野蛮性を全く理解できないでいた。
ラス・カサスの本を読むと、キリストに何かを誓ってから人を惨殺していたことが書かれてあった。
そして自分はキリストについても勉強をし、キリスト教徒ではない人間は隣人ではないので殺してもよい、と彼らが考えていたことが小室直樹の本に書かれていた。
執行草舟氏は、野蛮性と菌については密接に関係があると『生命の理念Ⅰ』のなかで語っていた。
本書を読むと、ラス・カサスの件の全体像までは把握しきれないが、菌と精神が結びついているという事実を加味すれば、理解できないこともない、と思い始めた。
本書では、化学肥料、除草剤、農薬などによって土壌内の菌が減少し、植物に悪影響を与えるメカニズムについて詳しく書かれている。なかには研究者向けの高度な内容も混ざっているのでさすがにすべては理解できないが、現代の効率主義、合理主義が菌の力を弱め、精神を脆弱させている可能性について考えさせられた。
執行草舟氏も言っているように、加工というプロセスは菌の力を著しく弱める。本書では加工のプロセスで野菜の栄養分がどんどん失われていくことが書かれている。
今日存在する菌に関する食品は効率重視の世界において、もはや菌食にはなりえない。
あくまで菌というひとつの視点でしかないので全体についてまでは言及できないが、今日の精神疾患、自己免疫不全、慢性疾患などは大いにこのことと関係していることは著者も書いているとおり、間違いない。
問題は、それが大昔と比べてどの程度なのか、ということである。
本書は数多くの知見を提供してくれるとともに、多くの考察する材料を与えてくれた。
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メモ
食の欧米化⇒小腸で消化しきれず大腸へ流れ込む。そして大腸を傷つけ、DNAの損傷はガンにつながる可能性がある。
野菜の質の変化
“トーマスが特に気になったのが、イギリスの食生活に欠かせない二品目ーーージャガイモ、ニンジンーーーのミネラル含有量がい驚くほど低下したことだ。一九四〇年から九一年までに、イギリスのジャガイモはマグネシウムの約三分の一、鉄と銅のほぼ半分を失った。そしてニンジンではマグネシウムと銅が四分の三、鉄がほぼ半分減った。別の二種類の作物、ホウレンソウとトマトでは、銅の含有量が九〇パーセント低下した。” P295
化学薬品、農薬は人体に影響を与えるのではなく、土壌生物に影響を与え結果的に人体に影響を与える
“不耕起栽培には利点があるが大量の化学肥料、農薬、除草剤を施せば、土壌生物の生態を混乱されるので、やはり問題がある。このような化学製品は、細菌や菌根菌の群集の構成を変え、微量栄養素の移動を左右する根菌の共生関係に影響を与える。” P299
読み終わった直後の感想
目的を持つことはある意味視野を狭くする。目的という一点が全体を覆い隠す。その例が本書のなかに随所にみられる。効率を追求した代償は少なからず全体へ何らかのかたちで私たちに降りそそぐ。