■株式会社講談社
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『生命の理念 Ⅰ』のつづきを読み終えた。
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感想
内容が卓越していて、とてつもなく濃いものとなっているので2か月ほどかかった。本書の射程範囲は凄まじく広く、物理学・化学・生物学・歴史学・文学・哲学・神学・医学、、、とほぼすべての学問が網羅されている。
菌の話があまりに興味深かったので、途中は『土と内臓』に寄り道もした。
端的に、現代版のゲーテと言ってもいいくらいの博識ぶりに、自分は大いに影響を受けている。
ただ知識があるのであればそれは学者も引けを取らないが、この方は実業家であり、社長でもある。
理論としての学問・思想がそのまま事業に生かされている。また、理論と実践が弁証法のように、お互いに昇華し合って、唯一無二の存在として自分の目の前に輝いている。この著者のイメージを書いてみるとざっとこんな感じに映る。ひとつして誇張はない。実際に自分はこの著者の社長室に入らせてもらい、どのような本が陳列されているのかをこの目で見ている。
話が壮大でありながら、時折局所的な問題に話が移ったりもする。理論だけではなく、実践の部分においても忌憚なく意見が交わされる。こんな本は自分の知る限り存在しない。あるにはあるが、小林秀雄の『学生との対話』のような本はあるが、ここまで長い本(1000ページ超)は見当たらない。
今日読んだ箇所の感想をさらりと書いて最後に全体の感想を書いてみたい。
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新しいもの ≒ 毒
執行草舟氏によれば、30年後に残る本は全体の1パーセントだという。本書も例外ではない。感化された人間が残したいと強く願えばその本は読み継がれる。本も競争が激しい。
“出版物は、実際に統計的に出ているのでわかりやすいです。新しく出版されたもので、三十年後まで残るものは一%しかなく、残りの九十九%の出版物はその時点ですでに消えているのです。そして百年も過ぎて残っているものは僅か〇.一%もありません。世の中にとってあまり必要なものではなかったということなのです。” P316-317
ドン・キホーテでさえも、当時の人間からすればただの新しい大衆小説だったと執行氏が語っていたのが忘れられない。本ばかりは確実に時間が評価を下す。そして同時代の人間には最後まで分からない。新しいものは本に限らず常に「毒」の要素を持ち合わせているのだという。モンテーニュの言葉を思い出した。商人は若者を無駄遣いさせることで利益を上げている、と。
自分も、たまには同時代的な本を読みたくはなるが(いや、たまにではなく度々かもしれない)、極力古典のほうに関心を向けていきたいと改めて思った。執行氏も池田晶子も、くだらないものに触れるほどに、その人はくだらない人間になると語っている。これは先人からのメッセージ捉えたい。
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教育については非常に考えさせられた。政治哲学も並行して勉強しているので「平等」という言葉には反応してしまう。
“誰でもがんばって受験勉強しなければならないという考え方が、受験地獄を創り出しています。そしてその根底には、他人を羨み、みなが同じになろうとする間違った平等思想なのです。” P333
自分は20代後半で努力をなるべくしないほうがいいと結論づけた。そのことに関してははてなブログのほうに今でも記事として残している。執行氏も同じことを言っていた。つまり、頑張る(=努力)ことはとてつもないストレスを生み出すので、なるべくならしないほうがいいということである。これは「何もしない」を意味するのではなく、自分にとって苦痛ではない事に打ち込めというメッセージだ。いうまでもない。
幸田露伴『努力論』にも同じことが書かれている。今は「やればできる」とほとんどの人が思っているのではないだろうか。たしかにそうなのであるが、これはその人にとって才能のある領域に限って「やればできる」という意味なのである。これを分かっていない人が多いので、無理に習慣化しようとしたり、気合いでなんとかしようとしている人間がSNSに湧いている。これは見ていて本当に痛ましい限りだ。
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しかしマイケル・サンデルならやはりそうは思わないのかもしれない。『実力も運のうち』を読む限り、遺伝子よりも環境のほうが人生を決定づける可能性が高いとサンデル氏は考えている。だから「環境」という名の資本を再分配することに余念がない。そのことは読んでいて十分に伝わったし、当時の自分も環境要因の「才能」をどうにか恵まれていない人たちに還元できないかを考えた時期があった。サンデル氏は一流大学への裏口入学を阻止し、くじ引き制の導入について提案していた。
ゲーテも間違えることはあるので(『色彩論』の科学的な見解など)、自分も教条主義には気をつけたい。執行草舟氏も神ではないので、あとは自分で考えていくしかない。何が普遍なのか、何が不変なのか、何が正しいのか。
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全体の感想
本書の特徴を一言で表すとすれば「息を吹き返すための本」である。最後のページにも、著者が人生のところどころで本書を読み返してほしいということを書いていた。
つまり、本書は活力の泉だということである。
これから不合理な目にあったとき、不幸のどん底に落ちた時、本書を再読する。
人間はネガティブな時は判断力が著しく下がるものである。つまり、認知を、認識を矯正するために本書が役に立つ。
あまりうまいことは書けないが、本書には著者の考えだけではなく、数万冊を読破した著者の思考、生命のエネルギーと、人類の知が凝縮された英知が詰まっている。あまりに長い時間がかかったが、やはり最後に思うことはただひとつ、素晴らしい読書時間であった。