執行草舟『夏日烈烈』講談社(2018)
ジャコモ・レオパルディ『カンティ【新装版】』名古屋大学出版会(2024)
グスタフ ルネ・ホッケ『絶望と確信: 20世紀末の芸術と文学のために (高山宏セレクション〈異貌の人文学〉)』白水社(2013)
アシル・ムベンベ『黒人理性批判』講談社(2024)
森村進『自由はどこまで可能か』講談社現代新書(2001)
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■株式会社講談社
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感想
『夏日烈烈』
書店で手に取ってからおそらく2か月は経った。分厚く非常に濃厚な読書時間であった。(約500項)
今回は現役医大生との対話ということで、医大生という立場からの死生観、西洋医学への批判は初めて目にするものがあった。
本書の内容は文明論、文学論、医学、生命論、科学、哲学、歴史と多岐にわたる。執行草舟氏の本であれば毎回恒例のようになっているように感じる。
初めて手に取る人も二人の熱量に圧倒されるとともに、二人の思考がいかに深いところにまで到達しているのかが理解できると思われる。佐堀氏は自分より1つか2つほど年下のように思われたが、読書量は自分の2倍以上は軽く超えているように感じた。読んだ量でどうのこうの言えることではないが、執行草舟氏を相手に500項のページを擁するほど語り尽くせるのは、若い世代のなかでは稀有な存在であると言える。素晴らしい対談であった。
今回も執行氏の本をきっかけに読んでみようと思うようになった本が二冊ある。
・シュティルナー『唯一者とその所有』
・森鴎外『阿部一族』
シュティルナーは昨日手に取ったので今日は『阿部一族』を書店で手に取った。
岩波文庫がなかったので新潮文庫にした。税抜き520円は新刊書店にしては安い値段だと思った。
値段といえば、本書では執行氏が本を薦めるとその本の値段が跳ね上がるという逸話が語られた。いや、これは嘘ではない。ウナムーノの本はAmazonでは高額になっていて、自分は仕方がなく大型の図書館で借りて読んだ覚えがある。
マイケル・ヤング『メリトクラシー』も2024年12月時点ではおそらく高額になっている。
執行氏の本は本人の矜持が目立つが、それでも嘘を言わないところが個人的に好感が持てる。
メモ
“でも僕がさっきシュティルナーを挙げたのは何でかというと、埴谷雄高と同じ気持ちだと思うんだけど、自分が混沌であり悪徳であり、ある意味じゃ駄目な人間であるということをしっかりと宣言できる人間以外は、本物は掴めないんじゃないかと思うからなんだよ。” P388
“僕は今までにあらゆる文学とか哲学を読んできて、結局皆が行き着くのは、地獄なんだよ。(・・・)結局、天国が好きなまま生きている人というのは、文化とか学問はやらなかったということになってしまう。” P392
“今の民主主義の話している生命論というのは、猿と豚などの動物の話とあまり変わらないんだよ。肉体大事が何ものにも優先していくとそうなってしまうんだ。” P415
“僕が本の中で何度も書いているけど、一番現代の人に知ってもらいたいのは、憧れというのは欲望の反対だということ。だから現代人が言っている夢というのは、憧れの対極にあるものなんだよ。” P476
本書から様々なものを引き出してもらった。
ヒューマニズムの矛盾、医療の矛盾、営利活動の矛盾、出版業界の矛盾、愛の矛盾。
Aだと思っていたことが実は-Aであり、-Bであると思っていたことが実はBであったりと、世の中は逆説に満ちているということを痛いほど痛感させられる、諸刃の剣のような一冊であった。
また、『生命の理念』は辞書のように使って欲しいという執行氏の発言を受けて自分もそのように読んでみようと思うに至る。
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新・読書日記265(読書日記1605)
メモ
“新自由主義とは、短い時間が貨幣形態の増殖力に変換されると見込まれる時代のことである。” P10
(『黒人理性批判』)
“要するに、遠くの世界を思考し、分類し、想像する仕方において、知的でもあれば民衆的でもあるヨーロッパの言説は、しばしば仮構作用という手法に訴えてきたのだ。しばしば捏造された事実を現実的、確実、真正なこととして提示しながら、この言説はみずからが把握しようとするものを巧妙に遠ざけてきた。” P25
(『黒人理性批判』)
“言葉あるいはイメージは、しばしば客観的世界に関してわずかなことしか言っていない。” P26
(『黒人理性批判』)
“ジャック・モノーは、その近著『偶然と必然』のなかで、懐疑的な同業者とは反対に、あらゆる生命は単に<偶然に>原アメーバから発見したものにすぎず、したがって人間は純粋な細胞ー力学の産物であって、この細胞ー力学から<法則>は後になって導き出されたものであることを証明することができると<信じる>のである。(・・・)<偶然>の哲学は絶望の状態に対応するものである。” P63
(『絶望と確信: 20世紀末の芸術と文学のために (高山宏セレクション〈異貌の人文学〉)』)
“言語の問題は言説のなかで消え、社会の問題は一般性のなかで消える。” P69
(『絶望と確信: 20世紀末の芸術と文学のために (高山宏セレクション〈異貌の人文学〉)』)
ボードレール「文法は、痩せた文法ですらもが、何かしら呪文を唱える魔法の幽霊のようなものだ」
・・・
『カンティ』メモ
“誰があなたを哀れむだろうか。
おのれにかまけて、他人のことなど気にせぬなかでは。
命取りなるあなたの苦悩を愚かなことだと言わない者が
今の世にいるであろうか、偉大さや、類いのなさは
愚かさという名で呼ばれる今の世に。
妬みさえもはや見られず、だが妬みよりさらにきびしく
冷淡がすぐれた者に降りそそぐ。
おお、詩歌より数字に耳を傾けるなら、
誰があなたにもう一度月桂冠を授けよう。” P31