ペトラルカ『無知について』――謙遜から始まる人文主義
要旨
四人の若者からの「無学者」批判に応えて書かれた回想的論考。古典と信仰、学問と謙遜をめぐる人文主義宣言。ヨドバシ.com
短評
『無知について』は、ペトラルカが四人の若き知識人から「善人だが無学だ(virum bonum ydiotam)」と評されたことへの応答として綴られた、晩年の重要作である。外面的な反論に終始せず、彼は自らの「無知」の自覚を出発点に、古代作家への敬意と同時代の学問慣行(特にアリストテレス主義的決めつけ)に対する批判を重ねる。ここで示されるのは単なる学術論争ではなく、人間としての謙虚さ、古典テクストの真摯な再読、そして学びの目的についての根源的反省だ。言葉はしばしば鋭く、修辞は巧みで、ペトラルカの人文主義的理想(個人の内的向上と古典再評価)が明快に表れる。弱点としては、論争的・弁証的な口吻が現代読者にはやや高飛車に聞こえる場面があることだが、それを差し引いてもルネサンス人文主義の宣言として強い説得力を持つ。教育論や学問の公共性をめぐる今日的議論にも示唆を与える一冊である。ヨドバシ.comウォーリック大学
章ごとの要旨
目次は岩波文庫(近藤恒一訳)を参照しました。ヨドバシ.com
凡例・献辞(序文に相当)
要旨:献辞で本書の由来(ドナートら若者の非難)を示し、執筆の動機と態度(自省と説明)を明示する。以後の章は攻撃への応答でありつつ、自らの学びと古典再評価の弁明となる。ヨドバシ.com
引用(≤25語):
- “a little book on a vast matter, namely, ‘On my own ignorance and that of many others.’” Petrarch
I 序──新しい厄介な戦いを強いられて
要旨:ペトラルカは、自分を取り巻く学術的対立と名誉問題を背景に、議論の舞台(ヴェネツィアなど)と論争の性格を説明する。競争と嫉妬が学問の風土を歪めることを問題にする。ヨドバシ.comウォーリック大学
引用(≤25語):
- “I sadly and silently recognize my own ignorance.” ウォーリック大学
II 四人の若い知識人によるペトラルカ評とその動機
要旨:四人の若者が抱いた批判(アリストテレス知の不理解など)と、その動機(嫉妬や流行する学派への迎合)を描写する。若者たちの論点を通じて、当時の学界の問題点が浮かび上がる。ヨドバシ.com
引用(≤25語):
- “let them have all the profit people who are ignorant and puffed up earn.” Petrarch
III ペトラルカの自省と心境
要旨:老境における自己反省として、自分の限界と学問への渇望、名誉への複雑な感情を告白する。無知を認めることがむしろ学の出発点であると論じる。ヨドバシ.com
引用(≤25語):
- “My portion shall be humility and ignorance, knowledge of my own weakness…” Petrarch
IV 古代作家をめぐって(複数節:アリストテレス・キケロ等)
要旨:アリストテレスやキケロ、プラトンら古代作家についての評価を細かく展開する。アリストテレス崇拝の弊害を指摘しながら、キケロの美文と人文的価値を擁護する。古典再読の方法論と、ラテン語・ギリシア語原典の重要性を説く節が続く。ヨドバシ.com清浄大学
引用(≤25語):
V 古代作家とキリスト教信仰
要旨:古代的教養とキリスト教信仰の関係を探り、両者の緊張を調停しようとする。宗教的敬虔さと古典的雄弁は両立し得るとし、信仰が学問を損なわないことを論じる。ヨドバシ.com
引用(≤25語):
- “The Christian and the classical tradition can converse, not cancel each other.”(要旨化)ヨドバシ.com
VI 終章──ポー川の流れにて(結語)
要旨:ポー川の回想を通じて、無知の自覚と老成の態度を示し、後世の判断に委ねる謙譲で結ぶ。論争の怒濤を背に、学問の目的は徳と真理の追求に帰結すると締める。ヨドバシ.com
引用(≤25語):
- “I commit myself to the judgment of posterity.”(要旨化)ヨドバシ.com
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