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ナシーム・ニコラス・タレブ『反脆弱性[下]――不確実な世界を生き延びる唯一の考え方』読了+新・読書日記582(読書日記1922)

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日記

タレブとは非常に相性が良かった。刺激的な社会批評の本だった。宮台真司風にいえば「タレブのいう博学とは「社会学主義」のこと。法外と法内をシンクロさせるための本」。執行草舟風にいえば「運命に体当たりすることは、目の前のこと、つまり偶然性を受け入れることだということがよくわかる本。また、ヒューマニズムの弊害について考えるための本である」。苫米地英人風に言えば「コンフォートゾーンから抜けるための本」。内海聡風にいえば「医療界のウソを批判的に考えるための本」。批評の切り口が豊富で、痛快。弱点といえば、ビジネス書ばかり読んでいる人には重たいだろうな、ボリュームあるだろうな、という本。

  

メモ

医原病批判の文脈で

“法律の世界には、無罪と証明されるまでは有罪と、有罪と証明されるまでは無罪のふたつの考え方がある。これにならって、私はこんな法則を掲げたい。母なる自然がすることは、正しくないと証明されるまでは正しい。人間や科学がすることは、不備がないと証明されるまでは不備がある。” P183

  

統計学批判の文脈で(タレブは確率論を専門とする)

“さらに、脂肪が悪者にされ、”無脂肪”がはやし立てられている原因は、回帰分析の結果の初歩的な解釈ミスであることがわかっている。ある現象に対して、ふたつの変数(この場合。炭水化物と脂肪)が共同で責任を負っているのに、一方の変数の責任にされることもあるのだ。多くの人は、脂肪と炭水化物の同時摂取によって起こる問題を、炭水化物ではなく誤って脂肪のせいにしている。” P192

  

断食と健康を考える文脈で

“運動というストレスが身体にいいことには納得できるのに、食べ物の欠乏に同じ効果をがあるとは考えられない人が多いのは実に不思議だ。” P212

     

“現代性の最悪の問題点は、ある人から別の人へと脆さや反脆さが移転するという悪辣な現象にある。一方が利益を得ると、もう一方が(知らず知らずのうちに)損をこうむる。このような移転を助長しているのは、広がりつづける倫理と法律の溝だ。” P222

  

“私はトレーダー時代、組織の”代表者”との取引を信用したことはいちどもなかった。(・・・)商売につながるのは道義心だけだ。どんな商売であっても。” P278

  

“(・・・)倫理なき生活は、個人的なリスクを伴わなければ価値がない。” P297

  

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『人間的、あまりに人間的 Ⅰ』

“愛することと所有すること。ーーー女たちは、たいてい、或るすぐれた男を自分ひとりでもっていたいというような仕方で愛する。もし彼女らの虚栄心がとめなかったら、錠をかけてしまっておきたいところだろう、虚栄心は、彼が人前でもすぐれているようにみえるようにと欲するのである。” P356

  

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Chat[GPT×読書梟

カント vs. タレブ

a. 動機と結果の分岐

  • カント:動機が純粋に義務から発しているかどうか。
  • タレブ:その行為者が自らリスクを背負っているかどうか。

カントは「たとえ不幸な結果になっても、義務から行ったならば善」と言う。
タレブは「結果を自分で被る構造でなければ、そもそも倫理は成立しない」と考える。

b. 普遍化可能性 vs. 具体的リスク

  • カント:抽象的な普遍性(理性による定立)が基準。
  • タレブ:具体的な脆弱性の分配(リスクの転嫁か否か)が基準。

つまり、カントは「理念による普遍性」を求め、タレブは「現実のリスク分配における公正さ」を求める。

   

小論草稿:カントとタレブにおける倫理の架橋

カントの義務論は、普遍化可能性を基準に行為の正しさを測る。「自分の行為が普遍的な法則になってもよいかどうか」という問いは、倫理を抽象的な理念の次元で定立する。そこでは、動機の純粋さこそが善悪の基準であり、結果や利害は二次的なものに過ぎない。

一方で、タレブの倫理は「リスクの引き受け」という現実的基準に根ざす。彼が繰り返し強調する skin in the game の原理は、倫理なき安全圏からの発言や行為を拒絶する。個人的なリスクを伴わない善意は空虚であり、脆弱性を他者に移転する行為は不正義そのものだ、と。

両者の視点は異なるが、ここに補完関係を見出すことができる。カントが求めた「普遍化可能性」は、タレブ的に言えば「自分も同じリスクを引き受けられるか」という問いに翻訳できるからだ。他者に転嫁するような行為は、普遍化できないと同時に、自分がリスクを取っていないという点で不倫理である。逆に、自分が傷を負うことを覚悟してなお行う行為は、普遍化の要件をも満たす。

したがって、カントの理念的普遍性とタレブの現実的リスク分配は、同じ倫理的直観の異なる側面を照らしている。理念を空疎にしないためにはリスクの引き受けが必要であり、リスクをただの自己保存に矮小化しないためには理念の普遍性が必要だ。カントとタレブのあいだには、理念と現実を架橋する一つの倫理的循環が見えてくるのである。

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平成生まれです。障がい者福祉関係で仕事をしながら読書を毎日しています。コメントやお問い合わせなど、お気軽にどうぞ。

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