閉じる

新・読書日記46

  井上太一『動物倫理の最前線 批判的動物研究とは何か』人文書院(2022)

■株式会社人文書院

公式HP:http://www.jimbunshoin.co.jp/

公式(旧 Twitter):https://twitter.com/jimbunshoin?ref_src=twsrc%5Egoogle%7Ctwcamp%5Eserp%7Ctwgr%5Eauthor

         川上未映子『黄色い家』中央公論新社(2023)

■株式会社中央公論新社

公式HP:https://www.chuko.co.jp/

公式X(旧 Twitter):https://twitter.com/chuko_bunko?ref_src=twsrc%5Egoogle%7Ctwcamp%5Eserp%7Ctwgr%5Eauthor

カタジナ・デ・ラザリ=ラザク/ピーター・シンガー『功利主義とは何か』岩波書店(2018)

■株式会社岩波書店

公式HP:https://www.iwanami.co.jp/

公式X(旧 Twitter):https://twitter.com/Iwanamishoten?ref_src=twsrc%5Egoogle%7Ctwcamp%5Eserp%7Ctwgr%5Eautho

 渡辺一樹『バーナード・ウィリアムズの哲学:反道徳の倫理学』青土社(2024)

■株式会社青土社

公式HP:http://www.seidosha.co.jp/

公式X(旧 Twitter):https://twitter.com/seidosha?ref_src=twsrc%5Egoogle%7Ctwcamp%5Eserp%7Ctwgr%5Eauthor

ランドルフ・M・ネシー『なぜ心はこんなに脆いのか: 不安や抑うつの進化心理学』草思社(2021)

■株式会社草思社

公式HP:https://www.soshisha.com/

公式(旧 Twitter):https://twitter.com/soshisha_SCI?ref_src=twsrc%5Egoogle%7Ctwcamp%5Eserp%7Ctwgr%5Eauthor

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

日記

いろいろと読み込んだ一日であった。

なかでも『動物倫理の最前線』は一番集中して読めたように思う。ピーター・シンガー『動物の開放 改訂版』と同時並行で読み進めたい。(新・読書日記44に収録)

https://labo-dokusyo-fukurou.net/2024/05/16/%e6%96%b0%e3%83%bb%e8%aa%ad%e6%9b%b8%e6%97%a5%e8%a8%9844/

  

自分はピーター・シンガーがカント主義ではなく功利主義の立場にいることがまだ理解できていない。

資本主義を疑うという常識外れの思考を続けながら、自分と明らかに考えが異なるヴィーガンの文献にひょんなことから関心が湧いた。

カント主義と功利主義のせめぎ合いはどこまで続いていくのだろうか。

なぜ両者は相容れないのだろうか。なぜ手を取り合って、両者の良いところを取り入れた新しい別の類の理論を生み出せないのか。

しかし、このせめぎ合いを追うことで日々刺激を受け、いつもとは違う視点に立って物事を考えられる材料を得られたことは間違いない。

そこで進化論(今日は進化心理学)やほかの分野の知見と混ぜ合わせて料理してしまえば、誰もが味わったことのない格別な一品が出来上がるのではないだろうか。

そんなことを考えながら、今日は楽しく読書ができたように思う。

以下、今日得られたことなどを軽くまとめて新・読書日記46としたい。

  

・・・

『なぜ心はこんなに脆いのか: 不安や抑うつの進化心理学』

自然選択、群選択、血縁選択、性選択。進化論の初歩もまだあまり理解できていない自分を痛感。

本来であれば本書をもとに深い思考へとたどり着くにはダーウィン『種の起源』を読むべきところではあるが、なかなか読む意欲が湧かない。調べてみると、『種の起源』は大著でありながらあまり読まれない本で有名らしい。

それは置いて、ひとまず今日はハミルトンの【C<B×r】の概念を学びながら、いろいろと思索にふけった。

  

多くの代償を払ってまで(C)誰かを助けたいと思うとき、その利益と(B)「同じ祖先からくる遺伝子を共通に保有している比率」(r)を掛け合わせた値のほうが大きい場合、その行動が選択される。

それは生物の普遍的な法則なのかはまだ証明されていないそうではあるが、ある程度の妥当性はあるように思えた。

しかしながら人間についてはほとんど該当する例がないようにも思えた。

誰かが溺れていて、助けたいという衝動、助けたいけれどできないという葛藤はこの定式では単純に説明できない複雑な心理だ。

  

衝動。

道徳哲学の重心はこの衝動にあると自分には思われた。

衝動は理性で抑えるものと思われがちではあるが、人間の条件そのものでもある。

内発性、integrity(内的統一性)、無目的の体当たり等、自分の尊敬している人が少なからずもっている特性として、広義の意味を含む「衝動」は必要十分条件として屹立している。

  

山口尚『人が人を罰するということ』においても、自由意志と責任とのせめぎ合いのなかで「人間の条件=人間性」は、自由意志を否定する際の自己言及として否応なく現れる「矛盾」として露呈した。

“「責任など実在しない」という主張は「人間の存在条件を人間自身が否定すること」に等しい” (旧・読書日記1260より)

https://nainaiteiyan.hatenablog.com/entry/2024/01/12/231901

  

倫理学の理論を構築する際に立ちはだかる壁は常にこの「人間性」という概念であるように自分には思われた。

倫理学は「行為の正しさ」を追求するが、「いかに行為が動機づけられるか」という視点が欠けているためだとされる。

『バーナード・ウィリアムズの哲学』でスーザン・ウルフという学者が「道徳的聖者」のなかで以下のように述べていることが書かれている。

“(・・・)倫理学理論の描像を前提すると、ひとが芸術やスポーツといった非道徳的な事柄そのものに価値を認めることが理解できないと指摘した。” P110

  

マーサ・ヌスバウムは以下のように指摘している。

“「倫理学理論は当事者がいかに行為へと動機づけられるかについては説明しない」” P110

  

・・・

さらに複雑なことに、倫理を考える際に「運」の要素を考えることが必要不可欠である。

功利主義は結果にコミットする帰結主義に依拠するので、功利主義への反論の材料を用意する場合、運との関係性について考察しなければならない。

「人は自発的にした行為にのみ責任を負う」という「コントロール原理」というものが道徳の基本的な考えとされる。

しかしこれは運と折り合いが悪いと著者は語る。

この指摘は小坂井敏晶『責任という虚構』で展開された理論と重なる。

  

“道徳の考え方は、運の事象と関わるとき、基盤的な倫理のリアリティをうまく捉えることができない。(・・・)道徳は、事前の合理性といった尺度によって、超時間的かつ第三者的(不偏的)に責任や評価を規定しようとするからである。” P135 『バーナード・ウィリアムズの哲学:反道徳の倫理学』

  

こうやって書いていくと、議論がいろいろな方面に拡散していくのが自分でも自覚できる。

今日はまとまりのないものを無理やりまとめて頭に詰め、結果的に攪拌された溶液のような状態になっている。

 

ひとまずメモだけ残して明日を迎えたい。

  

・・・

メモ

“いくつか気をつけるべき点を繰り返しておきたい。病気そのものを進化的に説明することはできない。病気は、自然選択によって形づくられた適応ではないからだ。一部の病気に関連づけられる遺伝子や形質は、それぞれが利点と難点をもたらし、それが自然選択に影響を与える。だが、統合失調症や依存症、自閉症、双極性障害といった病気そのものに有益な点があるのではないかという考えは、そもそもの前提から間違っている。” P76 『なぜ心はこんなに脆いのか: 不安や抑うつの進化心理学』

 

”病気への脆弱性を進化的に理解しようとすると、さまざまな誤謬が待ち構えている。” P76 『なぜ心はこんなに脆いのか: 不安や抑うつの進化心理学』

  

・・・

『動物倫理の最前線 批判的動物研究とは何か』

こちらの感想と『黄色い家』の感想を書き忘れたので少しだけ書きたい。

『黄色い家』は読み易く、物語の展開が気になる序盤であった。隙間時間にちょくちょく読み進めたい。展開は適度に早いように感じた。

  

動物倫理の最前線については、いかに動物実験が無益(実験全体の0.04%ほどの実験からしか有益な知見が得られていない)なのかが網羅されていた。内容は部分的にピーター・シンガー『動物の開放』と同じであった。(致死率50%の動物実験など)

人々の訴えかけで無益な悲惨な実験はある程度減らせているものの、分野によってはそうではないことも理解できた。

このような本に対する意見には必ず「言っていることとやっていることが違う」というものがある。

ピーター・シンガーは実際にヴィーガンになっている。しかし自分は埒外なわけである。

バーナード・ウィリアムズも言っていることと行っていることの不一致性について絡めて論じていた。

  

いろいろ読み、いろいろ考えながら内省していきたい。

  


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。必須項目には印がついています *

© 2024 ラボ読書梟 | WordPress テーマ: CrestaProject の Annina Free