■株式会社中央公論新社
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感想
・あらすじ
主人公の航樹は就職活動を頑張ったが出版社には入れず、紙を扱う商社に入社した。
本をつくりたい、本を書きたいという思いは不完全燃焼のままであった。
「小説家になりたい」という夢は、学生時代に片想いを寄せていた女性との再会によってますます強くなっていく。
物語の後半は、どうしてもその夢を叶えるべく、結果的に出版社の営業職に転職。
その後の結末は、私小説でもあるこの本書が示している。
・偶然性の力を借りる
夢は追うものでもあり、しかし待つものでもある。
航樹は間接的に出版に関わる仕事をしていたが、いつまでも直接出版に関われないことにもやもやしていた。
かといって、焦ってはいけない。
自己啓発は行動することに重きを置くが、行動しないことも実は重要だということを本書は示している。
偶然に抗うことはできない。
偶然性を大事にしようと構える諺はいくつかある。
世の中は強火でいっきに料理を仕上げる「早熟」タイプもなかにはいるが、航樹のように弱火でじっくり生きる「遅咲き」タイプもいるものである。
・・・
人間の存在はプロフィールには還元され得ない。
プロフィールとは存在の形式である。
形式とは物質に与えられた言語、記号と言える。
人間の可能性というものは、この記述し得ない何かにあると自分は考えている。
だからこそ、自分探しなどといって自分を形式化しようとしてはならない。
シモーヌ・ヴェイユは『重力と恩寵』のなかで「この世にある本当の幸福は、中間的なものである」と述べている。
待つこと、追うこと。
過剰であってはならない。
だからこそ中間的なものを大事にしたほうがいいと感じた。
公開日2023/6/12