■株式会社中央公論新社
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感想(ネタバレ大いにあり)
自分はドラマを観ない。
忙しくて観れないというのでもなく、敢えてみないというのでもなく、小説のほうがいつでもどこでも、鞄に入れておけば読めるので、物語の世界に没入するには小説のほうが断然良いと思っている。
この本は非常に読みやすかったので、あっという間に物語のなかに没入できた。
主人公は女性だと思われるので100%感情移入はできなかったが、主人公はカフェの店員と、自分が新入社員の頃と同じような仕事だったのである程度は移入できた。
先輩後輩との微妙な距離感、結婚して徐々に連絡が疎遠になっていく人間関係。どれをとってもリアルで、だからこそこの小説からは同時代性を感じた。
・・・
あらすじ
主人公のA子さん35歳(名前を全部覚えられないので)はチェーン店のカフェの副店長。
社員はA子さん含め3人。店長のおっさん、A子さん、イケメン高身長で帰国子女のハイスペック男子の3名。あとはアルバイトが数名。(1人?)
何気ない仕事風景が描かれる。
登場人物はみっちゃん、大ちゃん、フウさん(男、A子さんの元カレ)
大ちゃんは、おそらく不細工な男子。みっちゃんに明らかに見下されている。
大ちゃんはみっちゃんに高校生の頃30回告白した。みっちゃんは拒否しつづけた。
しかし大ちゃんは友人と起業した。現在はタワマン住みというハイスペック。
あとはストロボというバーのマスター。
何気ない休日の日々が描かれる。
結婚したいのか、恋愛がしたいのか、それとも子供が産みたいのか、よく分からないという30代にありがちな悩み。
話の中心は常連客のB太さん。
毎日ランチタイムで本を読む予備校の数学教師、B太さんの存在をA子さんは知っていた。
毎日、毎日、ひたすら勉強。
A子さんはB太さんの顔が元カレに近いと感じていた。
そしてあるときをきっかけに、距離が縮まる。
A子さんは店長試験を受ける。
それはつまり、受かればいまの店舗から外れる可能性が高いということを意味する。
そして、、、合格を果たし、異動も決まる。
そのときもまだ正式に付き合っている人はいない。
異動とはつまり、B太さんとの別れを意味する。
最後に壮絶なドラマが、、、!!
なかった。
この物語りはあまりにリアルで、良い意味で平凡で、まさに今のリアルであった。
・・・
昨日、この物語の登場人物の言葉になびかないと書いた。
あまりに現実主義で、A子さんはなんのために生きているのか本当に分からなかった。
いや、生きるに目的は必要ない。
しかし何か違う。
ストロボのマスターが、もう引退してA子さんに店を渡そうかな?と伝える場面があった。
A子さんはカフェの経営に興味を持っていたが、自信がなかったので躊躇してしまった。
かといって、A子さんはカフェという空間、価値、社会的意義というものを深く考えているようにもみえなかった。
そのような考察が本書にはなかった。
思想が足りない。
そうなると、ただ自分の都合のいいように、自分がやりたいように、自分勝手にただ楽に経営して楽しくハッピーという、短絡的な思考にしかみえないのであった。
実際そうで、だから私にはこの店を継ぐことができないと漏らす場面があった。
仕事に熱心なのは素晴らしいが、仕事に対する情熱だけでは駄目だと思ってしまった。
いや、表現が間違っているかもしれない。
仕事に対する姿勢は素晴らしいが、自分の人生に対する認識が甘ったるい、というほうがまだ近いだろうか。
恋愛、仕事、プライベート。振り子が揺れるように、焦点が定まらない。
ちょっと中途半端な感じが最後まで否めなかった。
A子さんに問いたい。
A子さんにとって恋愛とはなにか、カフェとはなにか、人生とはなにか。
公開日2024/1/30