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日記
小室直樹の本を読み始めた頃、日本は「アノミー(無規範、無秩序)」にあると書いてあり、それが宮台真司教授のいう「クソ社会」のことだと分かり(宮台真司教授は小室ゼミ生であった)、興味を持った自分はその後地道に読んでいくことになった。
小室直樹の伝記を読み終えてから一年が経った。
宗教社会学の深みを知り、新聞、テレビなどで報じられるニュースをどう解釈すべきか、新しい視点を得ることができた。
しかしそれでもアノミーの根本原因が全く分からないままでいた。
そのヒントとなるのが三島由紀夫の自決にあると自分は考え、宗教社会学の基礎を叩き込み、本書の読解に取り組むことにした。
以下の本はとくに参考になった本である。
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本書によれば、三島由紀夫を理解するにはまず二.二六事件(昭和十一年)について知る必要がある。
ということで小室直樹は二.二六事件の詳細を分析する。
小室直樹いわく、二.二六事件は「まことに不思議このうえない事件である」という。
”決起軍が、たとえ反乱軍であろうとも、一般国民を襲う可能性があるなどということは、誰も、夢にも思わなかった。” P19
事件当時、国民はのほほんとしており、「何してんのかね」と、軍人をどつくくらい、自分が襲われるとは思っていなかったのだという。
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普通の識者は、二.二六事件の原因は「農村の貧困」にあると考えるのだという。
五.一五事件、血盟団事件もそのように考えられたという。
現代の日本人は、政府がウクライナに1兆円の支援を表明すると「もっと他に使い道あるやろ」と批判する。
現代は1兆円支援するくらい、食に困らない余裕がある。だから暴動までには発展しない。
ところが二.二六事件の頃は世界大恐慌(昭和四年)の影響もあり、餓死の危機もあるなか、国の予算は軍隊の強化に投入される状況にあった。
本書を読むと、それでもその仮説(農村の貧困)だけが原因ではないようである。
小室直樹はその理由として、政府軍と反乱軍が共存したことを挙げた。
“クロムウェルの銃騎隊が、チャールズ一世の麾下に加わり、ロンドンを警備するようなものではないか。” P27
“放火魔に火の用心をさせるようなものだ。” P28
小室直樹はクーデターのエートスを分析する。
“決行部隊は、日本政府を潰滅させ、東京を軍事力で占領した。これが合法的であるはずがない。決行部隊は、大日本帝国の法律を蹂躙した。これは、たいへんな大日本帝国に対する挑戦である。しかし、彼らのイデオロギーからすれば、国家の法律なんかよりも、「尊皇」「討奸」の大義のほうがずっと想いのである。” P30
次に三月事件の橋本欣五郎について語り出す。
橋本らはクーデターのあと、次に首相を誰にするか3人で相談して決めようとしたのだという。そこに彼らの天皇観が反映されているという。
“それぞれ、一介の中級将校にすぎない石原、橋本、満井の三人が相談して次の総理大臣を決めるというのである。ここに彼らの、いや、大多数の日本人の天皇観が窺える。” P35
小室直樹「天皇制の大原則からすると、大権私議は大罪である」
小室直樹は彼らのエートスは矛盾があり、あとは三島理論によって説明するしかないと語った。
“決行部隊は、尊皇義軍であると同時に反乱軍である。また、尊皇義軍でもなく反乱軍でもない。これらの命題がすべて成立するということは、形式論理学(記号論理学)上ありえないことである。それが成立するのが二.二六事件なのだ。これこそ、三島哲学の根底にある唯識論の「論理」である。” P47
唯識論は仏教に関係あることから、小室直樹は三島由紀夫の晩年の作品である『豊穣の海』を読み解きながらこの事件を分析しようとする。
“仏教は霊魂というものを認めない。(・・・)我がないとすれば、輪廻転生の主体はそもそも何なのであろうか?仏教が否定した我の思想と、仏教が継受した業の思想との、こういう矛盾撞着に苦しんで、各派に分かれて論争しながら、結局整然とした論理的帰結を得なかったのが、小乗仏教の三百年間だと考えられるのである。” P62-63
小室直樹は、仏教は哲学に近いと書いていたことを思い出した。
仏教は合理的であるから魂という概念を持たないのかもしれない。
仏教の派閥についてはまだ自分はさっぱり分からない。
とりあえず本質だけを掴めばいいと考えながら読み進めた。
メモ
小室直樹「仏教の入門書に最適なのは『ミリンダ王の問い』であって、決して『般若心経』から読んではならない」
なぜか。66項に書いてある。
“カントは、文章の長さとそれを理解する時間との関係について、「こんなに短くなかったら、もっと短かったろうに」(『純粋理性批判』序文)といっているが、あまりに簡潔すぎると、それを理解するための時間が長くなる。般若心経を理解したければ、むしろ、般若諸経を全部読むことをおすすめする。たいへんな作業だが、このほうが、むしろてっとり早い。” P66
・・・
70項以降は唯識論と『豊穣の海』の読解が中心であった。
メモ
“唯識説は、仏教の論理を徹底的につきつめたものであり、仏教哲学の極致である。観念論として、これほど完備したものはないと思われる。” P86
・個人の存在は事象の連続
・時間とは輪廻の生存そのもの
≒ 流体 ≒ 川 ≒ 万物は流転する
小室直樹いわく「存在する/存在しない」は形式論理学の考えなので仏教とは相容れないという。
⇒「存在するものでもなく、存在しないものでもない」
そして、唯識哲学と三島由紀夫についてこう語った。
“唯識哲学の理解なしに三島を理解することは不可能である。” P95
”輪廻転生に限らず、『豊穣の海』のテーマは、阿頼耶識をつうじての意志実現の過程である。” P105
つづく
公開日2024/2/23