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新・読書日記634(読書日記1974)

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日記

AI時代のはずなのに、私たちの現場にいるのは、賢さよりも“入力欄”だ。質問が増えるたびに情報は正確になると思い込んでいるが、じつは答えを生むための体力を削っている。沈黙や保留が必要な場所にまで「即答」を求めるから、肝心の選択肢を一緒に見つける余白が消える。

AIに期待していたのは、質問の自動化ではなかった。むしろ逆だ。ありあまる質問を減らし、要るものと要らないものの仕分けを助け、本人の言葉が流れ込む穴を空けること。けれど実際に届くのは、ログの自動要約、チャットボットの一次対応、書式の自動整形、評価指標のダッシュボード。便利ではある。それでも、問いの質を上げるという核心はほとんど手つかずだ。AIは「何を問わないか」をまだ学んでいない。だから私は、面談後の記録で意図的に余白を残す。未確定、観察中、本人の言葉をそのまま引用――そう書くと、上長からは「評価が曖昧」と赤字が入る。だが曖昧さは怠慢ではなく、熟す時間の確保だ。セネカが言ったように、私たちの自由は外部の雑音ではなく内部の過熱から守らねばならない。過熱した評価は、当人の可能性を先に蒸発させる。

私は就労支援を“成果の二階建て”で見ることにしている。制度が要請する一次指標(就職数、在職日数、離職率)と、本人の主権に属する二次指標(生活の予測可能性、自分のリズムの回復、関係の持続可能性)。前者は可視化が容易で、報告にも映える。後者は数値化が難しく、物語を必要とする。AIは一次指標を光らせるのが得意だが、二次指標に踏み込むと、たちまち沈黙する。だから私は、AIに二次指標の“通訳”をやらせてみる。本人が語った断片を時系列に並べ、喜びとしんどさの語彙を抽出させ、季節や家族行事や通院サイクルとの重なりを見せる。そこから見えてくるのは「働ける/働けない」という二分ではなく、「どの週どの時間にどの役割なら続けられるか」という具体的な地図だ。セネカの言う内的自由は、禁欲ではなく可鍛性だ。可鍛性は、週15時間から始めて25時間に伸びる、その間の折れ曲がりを肯定する設計だ。AIが役に立つとき、そこには必ず可逆性と余白がある。

一方で、現場の“過保護”は長生きだ。プラットフォームは注意書きを繁殖させ、相談窓口は同意書を重層化する。誰もが「守った」と言える形を欲しがるから、文言は増殖する。しかし、守ることと増やすことは違う。プラトンは法を魂の教育装置と見なしたが、教育とは「禁止の総数」で決まらない。教育は、問いの輪郭と対話の手順で決まる。私は相談室のドアを閉めるとき、一枚の紙を机に置く。今日の目的、今日触れない領域、そして次回に持ち越す課題。これだけで、質問の半分は消える。問わない勇気は、問う勇気の一部だ。キケロが公共を「私たちの事」と呼んだのは、制度は誰かに“される”ものではなく、共同で“引き受ける”仕事だと言いたかったからだろう。引き受けるなら、私たちは量ではなく秩序を選ぶべきだ。順序を設計すれば、人は話しやすくなる。順序のない質問は暴力に似る。

AIに何をさせるか。私は、まず「問診の減量」を任せたい。既存の書式を学習させ、重複質問を検出し、本人が一度答えた事項には“再利用マーク”をつける。次に「仮説の言語化」。支援員が無意識に立てている仮説(この方は朝のエネルギーが低い/通勤が最大のボトルネック/職場内の対人が疲労源)を、AIに言葉として書き出させる。仮説を明示すれば、外れたときにすぐ撤回できる。最後に「選択肢の列挙」。求人票の条件から逆算して、週数パターン、配慮項目、通勤動線の代替案を三つだけ提示する。三つであることが大切だ。人は三つなら比較できるが、十個なら疲れて選べない。AIの出番は、選択肢の数を増やすことではなく、選べる場を整えることだ。

疲れについても書いておきたい。質問の多さに倒れそうになるとき、私たちはしばしば「制度が悪い」「人手が足りない」と言う。半分は真実だ。だがもう半分は、私たち自身が“良い支援者”の像に縛られている。すべてを把握し、漏れなく問い、過不足なく記録し、早く結果を出す――その像は崇高だが、実装すると破綻する。私は自分の中の“良い支援者”像を週一で縮小する。完璧な把握よりも、適切な間合い。網羅的な質問よりも、決定に資する二つの問い。綺麗な報告よりも、次の一手に効く荒いメモ。こうして削った分の体力を、本人の小さな成功の観察に使う。通勤練習で駅の階段を一段飛ばしできた、面接の前夜に自分から連絡をくれた、職場見学後の沈黙が短くなった――二次指標はささやかだが、未来の重さを持つ。AIがもし賢くなるなら、この質量の小さな変化を拾い上げる方向に賢くなってほしい。

それでも、注意書きは増え続け、質問票は厚くなり、私たちはときどき敗北する。削除通知が来て、投稿がはねられ、言い訳を打ちながらため息をつく。私はそのたび、机の端に小さく書く。「形式は敵ではない。だが、思考の代用品にしてはならない」。これは自分のための禁句集でもある。相手を分類名で呼ばない、理由のない禁止に従わない、本人の言葉を要約しすぎない。AIにも同じ禁句集を渡す。便利な要約に飛びつかない、根拠のない相関に色をつけない、選択肢を三つ以上並べない。私たちは、支援と管理のあいだに橋をかける仕事をしている。橋は手すりが必要だが、手すりを増やしすぎると景色が見えなくなる。景色が見えなくなったら、誰の橋だったのか、すぐにわからなくなる。

今日も私は面談室で、質問の順序をひっそり入れ替え、問わない勇気を少し増やし、二階建ての成果を両目で見る。キケロの声に公共を思い出し、セネカの声に過熱を冷まし、プラトンの声に教育の秩序を整える。AIはまだ十分ではない。それでも、私の隣で「問わない問い」を学び始めているように見える。

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