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新・読書日記3

吉川浩満『理不尽な進化 増補新版』ちくま文庫 (2021)

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千葉聡『ダーウィンの呪い』講談社現代新書 (2023)

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日記

 『ダーウィンの呪い』講談社現代新書 (2023)

「生存戦略」「適応」「生存競争」といった言葉がビジネスや恋愛に関する本などで一人歩きしている印象を抱かざるを得ない自分がいた。

実際に、ダーウィンの理論を学んだ人間が恋愛でその知見を披露していたりする。

しかしそんなに単純な話なのか?なぜ生物学の知見が複雑な人間社会に応用できるというのだろうか?

いっとき「恋愛工学」の本が流行った。

今なら言える。「都合のいい部分だけを拾ったにすぎない」と。

 

・・・

  

まず『ダーウィンの呪い』で進化論に関する基本的なことを整理した。

”まずダーウィンの主張を整理しよう。(・・・)生物の進化は何らかの目標に向かう進歩ではなく、方向性のない盲目的な変化である、という主張が導かれる。” P14

ヘーゲルは歴史を直線的なものとみなし、人間は進歩する存在であるとみなしていた。そしてマルクスはヘーゲルの理論を改造し、資本主義から共産主義へと発展する世界観を描いた。

しかし、それは本当に正しいのだろうか?あとで書くが、『理不尽な進化』を読めば疑問はさらに深まる。

 

本書によれば、ダーウィンは生物の進化はランダムであると考えていながらも、「進化=進歩」とも主張していたとされる。しかしそこにはニュートンがアカデミズムの世界で表向き無神論者を装ったように、ダーウィンも社会に合わせざるを得ない事情があった。

“自説が社会に受け入れられるには、19世紀英国社会の進歩主義に貢献できるのでなければならない、と考えていたためだという。” P22-23

 

ミシェル・フーコーの「エピステーメー」のように、学問が政治によって捻じ曲げられる(コペルニクスのように)例だと感じた。

 

・・・ 

「生存競争」という言葉はビジネスと相性がいい。ゆえに、「生存戦略」といった用語が蔓延る。

しかし本書によればダーウィンの「生存闘争」という言葉には「生存競争」という意味を含むが、それが全てではないという。例えば植物と虫は持ちつ持たれつのような関係にある。両者がお互いに依存しているケースが少なくない。

ビジネスの場にお店と客が依存し合っているケースなどあるだろうか?あまりあるとは思えない。

生物学とビジネスは性質がまるで違う。

ここに「生存競争」という言葉が一人歩きする原因がある。

 

 

・・・

 

本書によれば『種の起源』は、ダーウィンが一般読者を強く意識したとされる。

わかりやすさを求めるあまり、「強い者」といった抽象的な表現が見受けられという。

“ただしダーウィンは『種の起源』では、恐らく読者へのわかりやすさを追求したために、自然選択に有利な個体をまとめて雑に「強い者」と表現されているので、説明に矛盾”を生じる部分があり、逆に誤解を招きやすいものになっている。” P32

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『理不尽な進化 増補新版』ちくま文庫 (2021)

100ページほど読み進めた。

まず以下を引用する。

“(・・・)本来の自然淘汰説のアイデアが教える適者は、人間的観点から見た強者や優者とはさしあたり関係がない。つまり、自然淘汰は、弱肉強食でも優勝劣敗でもない。自然の世界で適者であるための条件は、生き延びて子孫を残すということだけだ。” P96

仮に、巨大な隕石が日本に落ちてきたとする。

日本が壊滅したからといって、日本という国は他の国と比べて弱かったことになるか?

それは論理が破綻している。しかし無意識的に私たちはこのような思考をしていることもある。

 

適者生存という言葉には注意が必要だ。

「適している」という言葉が今度は一人歩きしている。

著者は、隕石がなければ恐竜はまだ生き残っていたかもしれないと語っていた。

そうなると、人間の祖先は厳しい戦いを強いられたかもしれない。

  

隕石が落ちた時、長い時間太陽光が遮断されたと見られている。

その結果、良い結果となった生物もいたとされる(藻類)。

だからといって、藻類が恐竜よりも適者と言えるだろうか?

すべてはランダムであり、あらかじめ起きることを予測して進化する生物などいない。

 

この二冊を同時に読むことでまずは基本的な意味を把握することができた。

進化論(進化学ともいわれるようである)は奥が深い。

今生きている生物は、今まで地球に存在した全種類の生物の0.1%にすぎないとされている。

それをラッキーとみなすのか、当たり前とみなすのか。

解釈の仕方次第で物事の見方が変わることは間違いない。

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