ラボ読書梟 (旧 はてなブログ大学文学部)

新・読書日記15

       小室直樹『新装版 危機の構造』ダイヤモンド社 (2022)

  

二年前、初めて読んだときは小難しくて読むのをやめてしまった。

しかしその後、気がついたら小室直樹『日本人のための憲法原論』、『天皇の原理』、『三島由紀夫が復活する』、『日本人のためのイスラーム原論』などを読破した。

小室直樹の文体に慣れたおかげか、ようやく本書を読み込める気が起き、いっきに60項ほど読み進めた。

  

小室直樹いわく、日本の社会的病理(無規範・無秩序)である「構造的アノミー」は、構造と組織の矛盾の所産だという。

その具体例は読み進めていくうちに少しずつ示されていく。

小室直樹がいうには、絶対に勝てない戦争にのめりこんでしまった大日本帝国の官僚と高度経済成長に貢献したビジネス・エリートたち、加えて全共闘の学生たちは「同型の人間類型」に属するのだという。

  

小室直樹いわく、軍事官僚は、自分は選ばれたエリートであり、日本の運命は自分たちの努力にかかっている、という意識が強くあったとされる。そして、全身全霊を打ち込めば自動的にうまくいくという考えがあった。

しかし社会科学に疎い彼らは、目の前の仕事を淡々とこなすには得意であるが、大局観に欠け、長期的な判断や対応力に欠けるのだという。

その帰結が、勝てもしない戦争を勝てると思い込んで玉砕した敗戦である。

小室直樹は「盲目的予定調和説」と名付けた。

 

この意識が全共闘の学生たちにも表れていたのだという。彼らは機動隊の舌を巻かせるほどの力を見せつけたのだという。

全身全霊を打ち込めば機動隊に勝てると思ったのだろうか。真偽はわかりかねるが、根本的なところでは戦前の官僚たちと似たような行動原理を備えているのだという。

書くと長くなるので割愛するが、二・二六事件でのクーデター側は、市民は殺めないという信念があったそうであるが、全共闘は信念すらなかった。それを小室直樹は「完全アノミー」と呼んだ。

  

その延長線上に令和の日本がある。

いまの日本は強いか。政治は機能しているか。国民の活力は高いか。

そうは思えない。

明日以降、構造と組織の矛盾というものの理解を深めていきたい。

つづく

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